「エセルとアーネスト ふたりの物語」
絵本風なのに制作がなんと9ケ月とは昔の手描きアニメなら考えられない。TVPaintなる液タブみたいに描けるアニメーションソフトウェアのお陰だそう。家は3DCG、手描きの壁紙や床の模様、水彩画と、デジタルとアナログミックスで効果的かつ効率化。レイモンド・ブリッグズの両親を描いた絵本を原作を、原作筆致も再現して忠実に映画化。2人が出会い一人息子を得て老いて亡くなるまで。彼らを取り巻く戦争や当時の社会情勢や文化も描く。監督: ロジャー・メインウッド。主題歌はP・マッカートニー。冒頭に原作者も登場し「パパとママは普通の人だった」と語る。普通とは普遍的。働き者の母親、新聞をよく読みDIYの好きな父親。多くの人が自分の家族を思い出すような丁寧さ。泣けて困った。原作もさながらスタッフの作品への敬意と愛が見える。
『トゥルーノース』
主人公家族は突然北朝鮮の強制収容所に収容され過酷な労働を強いられる。主人公と友人を首軸に人々に様々な苦難が降りかかる。主人公は一時看守側になったり迷走するも密かに脱出計画を立てる。取材10年と、信念を感じる骨太な作品。清水ハン栄治監督日本・インドネシア合作。過酷さの描写はアメリカンニューシネマの頃の映画を思い出すよう。アメリカなら赤狩りの頃。自由への渇望と戦いは普遍的。故にこそ人々の情が美しかったり醜かったり、また多面的であったりと細やかに鮮烈になる。
「FUNAN フナン」
1975年4月のカンボジアで、ポル・ポト率いる武装組織クメール・ルージュにより主人公達の村は占拠される。住民は強制労働のため農村に移動させられるが、途中で主人公の息子は行方不明に。理不尽に虐げられ、苛酷な労働に従事する人々の人間模様。ドゥニ・ドゥ監督の母親の実話が元。
「ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-」
『カニーニとカニーノ』米林宏昌監督、『サムライエッグ』百瀬義行監督、『透明人間』山下明彦監督の3編。ジブリの後継スタジオポノックとしてのプレゼン作品という風情。高画質で完成度ご高くそれぞれ全然違う作風の作品群。
『透明人間』
際立ってすごい。主人公は自分でも姿が見えず周囲から認識されず、喋らず重いものを持ってないと身体が浮いてしまう。彼の寂しさと再生の話。透明な身体の表現と質感と日常も含めアクションがすごい。眼鏡のレンズを通した風景、風邪で飛ばされる身体、同じ透明人間と思われる人とのシーン、雨粒が当たって光る身体、ラストのオチはバイクで遠ざかる姿のヘルメットから髪の毛が描かれてゆくことで、それとなく示しておしゃれ。無言ではないがほぼ主人公は喋らない。実験的芸術家作品。
『カニーニとカニーノ』昔のアニメ名作劇場を高画質にした感。テレビアニメにするといいんじゃないかな。宮崎吾朗監督の「山賊の娘ローニャ」みたく月日かけてキャラを育てていくとよさげ。ただ、リアルな魚じゃなくアニメ的な魚にしてほしいけども。
『サムライエッグ』卵アレルギーの子供の話。教育テレビの1コーナーに合いそうなのでそういう使われ方もありかな。超ベテランでジブリでは火垂るの墓から高畑勲作品の作画の中心だそう。でも監督歴は近年から。柔らかな背景画は監督の次作「Tomorrow’s Leaves 」も共通。