BLUE HUMAN

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「箱の中」感想

「箱の中」
木原音瀬著。冤罪で刑務所に収監された主人公と受刑者の恋愛話。なのに殺伐とした刑務所生活が面白くて続きをどんどん読みたくなる。この先BLなので2度美味しいわけだが。「美しいこと」もだったけど先を読みすすめたくなる力がある作家さん。この作品も主人公の相手が厄介で面倒で理想の相手ではないとこが面白いな。欠点のある人間同士の関係。打ちひしがれた主人公と彼になぜか優しくする無口な受刑者。理由は無邪気なもので主人公は彼と交流する。彼が図体は大きくても不遇で心は幼く。主人公は友人としての関係を育てようとするが。親切には礼呉れ頑張れば褒めろと、見返りのため行動する彼にそれだけじゃないと教えて彼に懐かれた主人公。主人公も情が移っているし同情もある。関係の積み重ねが良いなあ。BLでなければここがゴールと言ってもいい。しかしここからが本番なのが恋愛物。相手の積極的アプローチに辟易しつつも絆され、気持ちが傾きつつも葛藤する主人公。楽しい。出所して別れ別れの悲恋でこの話は終わる。でも続きがある。
「脆弱な詐欺師」彼は出所して探偵を雇い主人公を探す。この話で始めて彼がハンサム設定だと判明。これは普通の短編みたいな感じ。読み進たくなるのは同じだが。中年の探偵が主人公。彼の依頼を受けて金だけ巻き上げようとする。小市民なので悪事に逡巡したり家庭で揉めたりもする。しかし彼の刑務所仲間に見破られて脅され必死で探し当てる。惨めなオチといいこれはこれで纏まってる。
「檻の外」
昼ドラ風味だったけど、彼が主人公の完璧な愛を手に入れて幸せになる結末。主人公の前に彼が現れる。大喜びで抱きつく彼だが主人公は嬉しいけど複雑。いまや主人公は妻帯者で一児の父。塀の中での関係には戻れない。なんやかやで彼は家に来る仲になり、主人公の子供が懐く。子供の死で事態は一転。主人公の妻の仮面が剥がれる。実は長く浮気して相手の子供を妊娠していたと。犯人は浮気相手の妻だし離婚話で自殺未遂するし主人公と彼の関係を知ると傷害未遂するし。これでもかとくる。BLだし女性の扱いは良くなくて普通ではある。情が厚い主人公が未練なく彼を選ぶためだろう。一方彼は事件の容疑者になっても主人公も誰も恨まずただ子供を悼む。主人公を失いたくないと包み込む。というか主人公が彼に縋る。そして彼を選ぶ。彼は人間的に成長し、主人公は気持ちに素直になりめでたし。面白かったけど「箱の中」のが好きだな。馴れ初めがいい。他の作品も読みたいな。
「箱の中」「美しいこと」ともにノンケがホモになる話でそこもツボ。まずそこで迷いがあるとこが。恋愛か執着かわからないみたいな。これが作者の作風なら良いなあ。

木原音瀬「檻の外」の同時収録。
「雨の日」「なつやすみ」「すすきのはら」。雨の日はラブくてとてもいい。「なつやすみ」の主人公は堂野の血の繋がらない子供。父親だと信じて家に会いにきて二人と徐々に仲良くなる話。「すすきのはら」は堂野の母の葬式で養子縁組を決める話。いい後日談だった。

「美しいこと」
女装趣味の主人公と彼に惚れた男の話。どちらもノンケ。主人公も惚れたので男だと告白したら掌返しで避けられ、逆に主人公が彼を追い回すがひどいHであきらめるのが前半。ノンケ故マグロだったのと彼は全く協力的でないのが敗因か。彼の新しい恋人が主人公の同僚で、何度もダブルデートする羽目になるのが後半。主人公の視点だし彼の気持ちがわからなくて心のアップダウンが激しい。彼は男なのに忘れられないしノンケ故踏み出せず、でも主人公に背中を押してほしいと思ってたのかな。
「愛すること」
「美しいこと」の続編。あの後は和やかにお付き合いになったのね。主人公の幸せゆえの怯えと相手のハイスピードな傾き加減が良いな。踏ん切りつくと迷いがないと。研究してハイスピードでテクニシャンになる彼が微笑ましいやら。

「箱の中」のが好みだけど、どちらも読ませる。